インドの経済は2020年に入って成長率に対して懸念する声がインド国内で上がって居ます。
世界銀行が8日発表した世界経済見通し(GEP)で、インドの2019/20年度(19年4月~20年3月)の実質国内総生産(GDP)成長率を5.0%と予測した。昨年6月時点から2.5ポイント引き下げました。17/18年度と18/19年度に続き、インドのGDP成長率は3年度連続で鈍化するとの見通し。2019年のインド経済は減速傾向が強まりました。ノンバンクの資金繰り悪化を契機にした投資減少や民間消費の伸び悩みを背景に実質GDPは、前年の6.8%成長から4.9%成長に減速したとみられます。
世界で2番目に多い人口を抱える国としては妥協できない結果となるでしょう。
右派の最大野党・インド人民党(BJP)を率いるナレンドラ・モディ氏が権力を握ってから67か月後の、2020年がインドがこれから中国に続きアジアの第3経済大国になれるかについて率直な議論をする時が来ています。モディは2014年に首相の座に就き、彼を全国的に有名にした「グジャラートモデル」を超大型化することを約束しました。
モディ首相の名を知らしめた「グジャラートモデル」
モディが首相を務めてきた西部グジャラート州は高い経済成長を遂げて、モディには「行政の魔術師」のイメージが定着しました。強い指導力で州のインフラを整備し、自動車のフォードや衛生用品のコルゲートといった世界的大企業の投資を呼び込んだ実績を讃え、首相になったモディ氏。グジャラートは世界最大の石油精製所もあり、農業も主要産業です。モディが首相となったら「グジャラート」のシステムを全国に導入を公約していました。
トランプ政権のやり方の影響を受けるインド
アダム・スミスやデイヴィッド・リカードの「自由貿易論」という、異なる産業構造を持つ国同士が競争優位な産業に資源を集中させ、生産し、お互いに自由貿易取引をすれば、すべての国が潤うという周知の互恵的理論に則った動きに対し、世界の自由貿易を推進してきたアメリカが自由貿易やグローバル化の動きに待ったをかけようとしています。
所得分配という面から見て、アメリカが保護主義を推しているのは、自由貿易のメリットが先進国に対して少なく、途上国に対して大きいこことが原因とされています。ブランコ・ミラノヴィッチという経済学者が発表した「エレファント・チャート」は世界各国のさまざまな所得分布にいる人たちの実質所得が、1988年~2008年の20年間に累積で何%上がったかを示したものによると、この20年間で所得の伸び率が最も高かった層は中国など新興国の中間層で、逆に、ほとんど所得が伸びなかったのが、アメリカやイギリス、日本など先進国の中流下位の所得層ということがわかっています。
貿易摩擦の深刻化に伴い中国で製造することのリスクが高まる中、インドは米アップルをはじめ世界の有力企業に対し、生産拠点を同国に移転させようと誘致攻勢をかけ、事業進出がままならない国というイメージの転換を図り、予測可能でオープンな規制制度、シンプルな法人税制、ターゲットとなる業種への支援拡充などを約束しています。しかし、米国大統領ドナルドトランプの保護貿易政策の一環から、その政策に支障がきたしていることも事実です。
この自由貿易や互恵の恩恵にあずかろうとしたインドでしたが、中国の台頭を許してアメリカは、トランプなりの反省と政策という認識が一般的です。
インド国内で蔓延る問題点
モディが今のインド国内の財閥など、一部の経済利益を稼ぐ既得権益を覆すための行動をしたならば、インドはより速く成長するかもしれません。
たとえば、インド国内での自由競争、現行の経済格差・雇用創出問題、土地収用の問題などです。
①土地収用問題
日本国憲法では、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と規定し、公共のために必要がある場合、正当な補償を行って、私有財産を収用できることを定めています。しかし、インドでは収用に必要な高い合意率や住民への高額な補償規定、社会的評価アセスメントの導入などが新たな収用のハードルとなったため、土地収用は引き続き困難な状況が続いています。
②雇用創出の難しさに伴う、経済格差の拡大
インドは世界で最も格差の大きい国の1つとして知られ、近年農家による抗議行動が大都市に広がりました。職業訓練から、観光など雇用を生み出す産業の創出まであらゆる手段を講じなければ状況がさらに悪化するのは明らか点から、モディ首相にとっては雇用問題が国民からの支持を得るための必須の取り組みとなっています。
インドは年間に少なくとも600万人分の新規雇用を創出する必要があるということで、インドは年間に1200万人ほどが新たに就労年齢に達する見込みですが、労働参加率はかろうじて50%という水準で、女性ではもっと低いとされています。同時に労働市場では農業離れが進んでおり、農業は間接的に労働人口のほぼ半分を吸収しているが、作物の値下げ圧力や水不足などで不振に喘いでいるのが現状です。一方で労働条件の良い職場は一握りにすぎず、昨年は国有鉄道が9万人の職を募集したところ応募が2500万人に達したそうです。
モディ氏は前回の選挙で首相の座に就いた2014年に雇用の問題を認識し、「メーク・イン・インディア」政策によって2020年までに1億人分の雇用を創出すると約束。携帯電話の組み立て工場は増えたが、国内総生産(GDP)に占める製造業の比率はやっと16%で、目標の25%を大幅に下回っているのが現実です。まもなく高齢化が進むほか、自動化も高まることから、もうこの目標達成は無理だろうというのが大方の見方だ。米中通商紛争の影響で中国本土から追い出された工場を誘致するという期待も乏しく、さらに職業訓練制度が不十分なため、熟練労働者の確保は困難とされています。
原因としては、労働関連法の改革の遅れが対内投資や雇用創出の阻害要因となっているという分析です。
インドでは、労働法については中央政府とともに州政府が立法権限を持っており、GST 導入前の税制と同様、州ごとに異なる様々な法令が存在しており、加えて、100人以上の雇用者を有する事業所の閉鎖・従業員の解雇に際しては州政府の許可が必要になるなど、厳しい解雇規制も存在。モディ首相は、労働関連法の統合・簡素化や労働争議法の適用条件の緩和などを通じて、企業の積極的な採用を促進しようとしています。
一部地方では外国企業の受入に積極的なラジャスタン州が労働関連法の適用対象となる工場の従業員数を拡大するなど、一部で改革の動きがみられた中で、労働組合からの根強い反対などを背景に、中央政府レベルの労働改革は女性の産休取得可能期間の延長や児童労働の制限など、企業・労働者双方にとって比較的受け入れやすいものにとどまっており、これまでアパレル生産に関わる工場労働者のみに適用されていた有期雇用制度の適用枠が 2018年3月に全産業に拡大されたものの、既存の無期雇用者の有期雇用への変更が認められないことや、制度改正から1年程度しか経過していないこともあり、これまでのところ十分な雇用創出効果は看取されていないそうです。
RCEPからの撤退をするモディ首相
インドは東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に関する貿易協定に参加し、各国間での経済連携を進めていました。成立すれば世界最大規模の自由貿易協定となり、世界の人口の半分とGDPの約3分の1をカバーする。2012年後半以降、ASEAN加盟10カ国に中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドとインドを加えた16カ国で交渉を続けて来た中で、トランプ米政権がもう1つのアジア圏貿易協定であるTPP(環太平洋経済連携協定)を離脱し、あからさまな保護主義に傾いていることを受けて、インドが交渉から撤退する考えを明らかにしたため、妥結自体来年に持ち越されました。
撤退の話は、ほとんどの有権者が望んでいた経済変化ではなく、ポピュリストに傾いているモディが第2期を支配することを示唆しているため、本当にこれらの取り組みインドにとって必要ななのか検討する価値があります。
また、人口およそ13億のインドで宗教別に見ますと、人口の80%近くを占めているのがヒンドゥー教徒。一方、イスラム教徒は14%余りです。モディ首相は、ヒンドゥー至上主義を掲げる団体を支持母体に、国民の8割近くを占めるヒンドゥー教徒の支持を広げており、マイノリティであるイスラム教を排斥する動きを見せています。
インドは1991年にこれまでの閉鎖的な経済政策から180度転換して経済自由化を開始し、経済が、ヒト・モノ・カネ、そして情報までもが国境を越えて容易に移動できるグローバル化が加速を始めた時期に国内の構造改革と対外自由化を進め、近年では中国と並び新興国として注目されるようになりました。しかし今回の自由貿易からの脱退は1991年前に戻るのでは?という憶測も出ています。
インドがすべきこと
インドがすべきことは明らかです。早く規制緩和をすること。インフラ整備などの財源の確保や、税制の効率性・公平性の向上等を実現すること。雇用の創出に向けた労働法の統合や改正、そして自由貿易絵の積極へ参加。インド全体の経済成長はアメリカのような自国保護モデルでは容易には達成できないと思われます。
参照:http://bit.ly/381I2of