
023年7月、アフリカ西部のニジェールでモハメド・バズム大統領に対するクーデターが発生しました。大統領警護隊の兵士たちが治安維持対策への不満から反乱を起こし、アマドゥ・アブドラマン大佐が国営テレビを通じて「祖国防衛国民評議会(CNSP)」の樹立を宣言しました。同時に憲法の停止、政府と議会の解散、国境封鎖、夜間外出禁止令も発表されています。
クーデターの経緯
7月28日には、クーデターを首謀した大統領府警護隊司令官のアブドゥラハマネ・チアニ将軍が評議会の首班であることを宣言し、「バズム政権下での治安悪化や失政に対処するため軍事政権を樹立する」と発表しました。
これに対して国際社会は強く反発しました。アフリカ連合は軍部に対して15日以内に憲法秩序を回復するよう通告し、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)はニジェールとの貿易・金融取引を停止すると発表。さらに10日以内に憲法秩序を回復しなければ軍事介入の可能性もあると警告しました。国連、EU、フランス、米国なども同様にクーデターを強く非難し、財政支援や安全保障分野の協力を停止すると通告しました。
一方、首都ニアメでは、クーデター直後に軍部を支持する市民の一部が暴徒化し、政権与党本部の建物などが放火される事件も発生しました。その後、状況は落ち着きを取り戻したものの、集会禁止令にもかかわらず軍を支持するデモが散発的に起きています。中には、フランス軍主導のテロ掃討に抗議する市民がロシアの国旗を掲げてデモに参加する姿も見られました。
なぜクーデターが起きたのか?
ニジェールは旧フランス植民地であり、今でもフランスとの結びつきが強い国です。拘束されたバズム大統領は2021年に就任し、ニジェールの独立後初めて民主的な選挙で選ばれた指導者でした。
しかし、バズム政権はイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」や「アルカイダ」につながる武装組織の標的となりました。これらの組織はサハラ砂漠南縁部の「サヘル」地域で活動しており、隣国のマリとブルキナファソでは近年、同様のイスラム主義者の圧力を受け、軍部がクーデターで政権を握っています。
これらの国々ではフランスに対する不満が高まっています。イスラム過激派への対応が不十分だとフランスを非難する声が強まり、マリやブルキナファソではフランス軍を追放し、代わりにロシアの雇い兵組織「ワグネル」を受け入れる動きが見られました。
ニジェールでも、バズム政権が2022年にマリから追放されたフランス軍部隊の再配備を許可した際には、市民団体による反仏抗議活動が活発化しました。このようなイスラム過激派からの圧力と反仏感情の高まりが、今回のクーデターにつながったと見られています。
ニジェールってどんな国?
ニジェールの人口は約2440万人、国土は日本の約3.3倍にあたる126.7万平方キロメートルです。首都はニアメで、ハウサ族が人口の半分以上を占めていますが、ジェルマ(ザルマ)、プル(フルベ)、トゥアレグなど多様な民族が共存しています。公用語はフランス語ですが、ハウサ語なども広く使われています。
主な産業はウラニウムの生産と農牧業です。ニジェールはウランの埋蔵量が世界第5位(2019年時点)で、フランス、中国、カナダなどが採掘権を得て開発を行っています。農牧業では畜産と玉ねぎの生産が盛んで、近隣国に輸出されています。
一人当たりの国民総所得(GNI)は610米ドル(2022年)と非常に低く、国民の5人に2人が1日2.15ドル(約308円)以下で暮らす極度の貧困状態にあります。
外交方針と歴史
ニジェールは非同盟中立を掲げつつも、厳しい経済状況を背景に旧宗主国フランスをはじめとする先進諸国との関係緊密化に努めてきました。また、治安・テロ対策では欧米諸国と協調関係を強化し、域内の軍事的取り組みにも参加してきました。
ニジェールは19世紀末にイギリスとフランスが進出し植民地となりましたが、1960年8月3日に独立を果たしました。しかし独立後はクーデターによる政変が繰り返され、1989年に初の共和国大統領が選出されて民政移管が進みました。その後も1996年、1999年とクーデターが繰り返されましたが、2011年には民主政治が回復。2021年にはバズム氏が大統領に就任しましたが、今回のクーデターで再び政情不安に陥っています。
現状と今後の懸念
現在、ニジェールの首都では旧宗主国フランスの駐留部隊撤退を要求する大規模な抗議活動が行われています。クーデターを起こした軍部も仏軍撤退を求めており、市民からも「仏軍は出ていけ」などの声が上がっています。
これに対してEUは制裁の準備を進めていると表明しています。また、サハラ砂漠南部のサヘル地域ではロシアの民間軍事会社ワグネルの影響力が強まっているとされ、創設者プリゴジン氏の死亡後もアフリカでの活動は継続される見通しです。
今後、サヘル地域を中心にワグネルやロシアの影響が強まる地域で、ニジェールのようなクーデターが発生する可能性も否定できません。地域の政治的安定と国際社会の対応が注目されます。