8日投票されたアイルランドの下院総選挙(定数160)は、バラッカー首相率いる与党と2つの野党の計3党が横一線で並ぶ大混戦になっている。現地紙アイリッシュ・タイムズなどが投票直後に公表した出口調査によると、投票先として与野党3党が22%で並んだ。9日から開票が行われるが、過半数を確保する政党がないのは確実な情勢で選挙後の連立協議は難航しそうだ。
アイルランドの総選挙は一つの選挙区で複数の当選者が出る中選挙区制のため、得票率と議席数が比例しやすい。選挙での投票先を聞いた出口調査によると、与党の統一アイルランド党が22.4%でわずかにトップ。野党第2党のシン・フェイン党が22.3%、最大野党の共和党が22.2%で続いた。
シン・フェイン党は北アイルランド紛争と呼ばれる、1949年にイギリスから独立したアイルランドとは別に、北アイルランドというイギリスから移住したプロテスタント系住民の多い英国領において、アイルランドとの統合を目指すカトリック系住民とプロテスタント系住民の争いにおいて、過激なテロ行為を繰り返してアイルランドの統合を促すアイルランド共和軍(IRA)の政治団体を前身とする。IRAは一般市民および警察官、英軍兵士へのテロに従事していた為に、アイルランド共和国、イギリス、アメリカ合衆国など多くの政府によってテロ組織と認定されています。こんなバッググラウンドを持つ民族主義的な思想を持つシン・フェイン党は今回は緊縮財政からの解放など左派的政策で支持を集めた。これまでアイルランドでは長年にわたり、統一アイルランド党と共和党の主要2党のいずれかが政権を担ってきた。このためシン・フェイン党が躍進するとの調査は現地でも衝撃が走っている。
総選挙は下院の3分の1程度の議席しかない少数与党政権のバラッカー首相が1月に解散を宣言して実施された。英国との交渉で同国の欧州連合(EU)からの合意なき離脱を回避したことや、堅調な経済成長を武器に任期を前倒しして選挙に踏み切った。だが与党が議会第1党を守れるかどうかは不透明な情勢だ。
仮に第1党を守っても連立協議の難航は必至だ。これまでバラッカー政権に協力してきた共和党は連立入りを否定する。
躍進しそうなシン・フェイン党は、2025年までに英領北アイルランドも含めたアイルランド島の統一を問う住民投票の実施を求めている。主要2党はともに拙速な住民投票は地域の安定を損なう可能性があるとして慎重姿勢。シン・フェイン党との連立も否定する。議席数の結果次第では連立協議が暗礁に乗り上げ、再選挙の可能性も否定できない。
今回のシン・フェイン党の躍進の背景には、ブレグジットがあると考えられます。今までEUという同盟の中に英国とアイルランドが含まれ互いに穏便に済ませていたが、ブレグジットによりイギリスがEUからの撤退、その後アイルランドに対する強硬姿勢も辞さないのではということで不安の声も。「英国人は平和が嫌いなのか?」、「北アイルランド」はそんなにまで英国の辺境なのか。アイルランド島を一つの国としてまとめたいという気持ちはわかる。だが宗教や思想信条の違いは根強く人を分つ。その矛盾を止揚するのがEUではなかったのか。「英国人の心」を知りたい。
参照:https://www.bbc.com/news/world-europe-51432660