今回はアメリカについてです。今回2020年大統領選挙で民主党バイデン候補が確定した報道がなされ、2021年にはトランプから本格的にバイデン候補へ変更する事になります。
トランプが噴出させたポピュリズムと差別、分断という問題を改めて露呈させたアメリカですが、どのような変遷を遂げ、地政学的にはどのような国として位置付けられているのか、分析してみたいと思います。
世界の警察官を標榜していたアメリカの根底に流れる思想とは?
アメリカは昨今の大統領選挙の関心の高さから伺えるように、世界のメインプレーヤーとして莫大な軍事費の投入を背景に、様々な国での紛争や揉め事に介入していきました。
しかし、アメリカ自体は他国の侵略などの野心的な気持ちはそれほど高くないとされています。
それはなぜか。それはアメリカの成り立ちに伴う考え方から由来しています。それはモンロー主義という、アメリカ第五代大統領モンローが初めに唱えた(ような)、欧米間で互いに干渉しないことを主張する、外交の原理に基づいています。他国への侵略より、他国からの干渉をなるべく取り除こうとするスタンスです。歴史的に見ると、スペインやメキシコとの戦争で領土を統括することもおきましたが、そもそもはアメリカ自体がフロンティアを求めて成立した自由主義国家であり、陸続きのヨーロッパや中国などとはそもそも根本の地理的条件が全く異なる「海洋国家」だったからこそであるでしょう。
アメリカの戦争の歴史
アメリカの戦争の歴史を見ていきましょう。
まずは1898年に起きた米西戦争、そして1914年のWW1、1939年のWW2、1950年の朝鮮戦争、1960年のベトナム戦争、1962年のキューバ危機、1980年のイラク戦争、1990年の湾岸戦争となっています。
1898年に起きた米西戦争は、スペインとの戦争で、スペインの植民地であったグアム島とフィリピンを奪っています。
1914年のWW1は、アメリカが不干渉から他国への干渉に乗り出したきっかけの戦争。1939年のWW2は、ファシズムへの戦いと標榜して戦争をしました。朝鮮戦争は、ソ連との冷戦に伴う朝鮮半島の分断となった戦争です。ベトナム戦争は中国共産圏との戦いで、結果的に敗北し、ベトナムは社会主義化し、アメリカが唯一負けた戦争とも言われています。キューバ危機は、ソ連がキューバに核ミサイルを配備したことに対してアメリカが脅威を感じて海上封鎖を行うなどの一触即発状態になった出来事です。ケネディ大統領の大きな功績の一つとして讃えられています。
そしてイラン・イラク戦争は民主化の名目で中東への侵攻を図り、湾岸戦争ではイラクの独裁権力を握っていたサダム=フセインがクウェート侵攻を行ったことに対する対抗策として国連一致団結して戦争しました。中東への戦争は、一部では石油利権獲得の目的とも言われています。
このように、自由を標榜し、軍事大国として様々な戦いを繰り広げて世界の近現代の歴史に最重要な国となっていますが、戦争自体はアメリカに関わらず、「より広い土地、莫大な富」を求めた野心的かつ自己中心的な気持ちがきっかけとなっていることが大半です。
しかし、国際社会では「不戦」が常識であり、戦わずしていかに相手国と商談に臨んで民主化や、両国の利害を調整するかがポイントとなっています。
米中貿易戦争や中国の台頭
しかし昨今は、新冷戦と言われるように、経済貿易戦争を中心とした米中の対立が明確化しており、国際情勢を揺らしています。
この状況を地政学的視点から考える際、重要なのは従来の覇権国であったアメリカとその従来の覇権に挑戦する中国の対立です。シーパワー(海洋国家、海洋軍事が強い)であり交易による利益の為、地域の安定を志向するアメリカの国力に、ランドパワー(陸上権力、大陸勢力)であり支配領域の拡大を志向する中国の国力が追いつきつつあり、特にアジア太平洋地域においてはアメリカの覇権に中国が挑戦しているというのが覇権争いの現状です。
米中貿易戦争に関して経済的観点からだけでは、アメリカが自らも痛みを伴ってまで中国に制裁をかけ続けるという目的は、地政学的に考えると、中国の覇権獲得の挑戦をアメリカは自らが痛みを伴う事を覚悟した上で阻止し、覇権国としての地位を守り、アジア太平洋地域の安定を維持するために経済制裁を発動したと考える事も出来ます。
もう一つ話題になっている北朝鮮を取り巻く情勢です。トランプ大統領は米朝首脳会談も行いましたが、これも地政学に基づき考えてみます。朝鮮半島は地政学にとってはシーパワーである日本と、ランドパワーである中国の緩衝地帯です。
歴史を振り返っても、朝鮮戦争=朝鮮半島の主導権を中国と日本のどちらが握るかという争いが幾度となく起こってきました。そのような地政学的意味を持つ朝鮮半島を巡って、米朝首脳会談が行われたという事実を地政学に基づいて分析すると、中国が覇権争いの一環として北朝鮮に対する支配を強め朝鮮半島全域の支配までも目論む中で、アメリカは朝鮮半島における中国の影響力の拡大を防ぎ緩衝地帯としての機能を維持させるという意図をもって北朝鮮に対する強硬政策を改め、対話を基軸とした政策へ移行したと考える事が出来ます。
しかし、これはまだ一定の成果を出せたとは言えません。
なぜなら北朝鮮はロシアとべったり、中国と歩調を合わせる形で動きを進めていることが明白だからです。さらに韓国も、八方美人外交と言わんばかりの米中双方にすり寄る外交を展開していますが、やはり歴史的に見ると元々中国の属国であった朝鮮半島の宿命とも言わんばかりの韓国人の血がそうさせているのでしょうか、中国にあからさまに対抗姿勢を打ち出すことができずにいます。
経済的な癒着も韓国にとっては手痛い材料となります。 韓国の輸出入統計データを見てみると、最大の輸出先は中国で、2017年・2018年と2年連続で14%台の伸びを記録しており、中国向け輸出の約3割を占める半導体が32.7%増と大幅に増加しています。全体の25%を占めています。輸入も同様で、中国からの輸入が全体の20%を占めている状況で、両方ともアメリカの倍近くのシェアを握っています。
地政学を通り越した別次元の問題
今の世界は中国を中心に揺さぶりをかけられていますが、問題なのはどの国も中国無しにはビジネスが成立し得ないところまで来ているということです。アメリカも中国相手に、貿易赤字を出していましたし、日本も中国を無視できない状況です(輸出はアメリカに次いで2番目ですが、輸入額が中国が圧倒的に1位)。
京都大学の藤井聡教授も言っていましたが、これは民主主義陣営対共産陣営だけではなく、そもそも戦後の国力や人間の価値の指標とされていた「資本主義」=お金を取るか、はたまたお金ではなく人間の尊厳そのものをとるか、という新たな問題に直面しているということです。
これは私も同意で、利益を重視しすぎたあまり、生産費用がかからない中国で工場を建設し、中国も自国への援助金や国外からの資金流入を受けて着実に成長し、金の力で世界に揺さぶりをかけ、自分たち側に立たない場合は経済制裁と称した関税対策などの戦いを行っています。
お金なしには生きていけない国や企業、個人の弱みを大いに握られた形です。
世界の警察官という役割をトランプ政権で下ろしたアメリカは、海洋進出を進める中国の動きを黙認、各国が自国で大国を相手に立ち回らなければ行けなくなりました。
良い意味でも悪い意味でも、世界を変えた中国やトランプ大統領。
今後世界はどこに行き着くのでしょうか。